近年、企業年金の重要性が増している中で、「はぐくみ企業年金」が注目されています。
正式には「福祉はぐくみ企業年金基金」と呼ばれ、厚生労働大臣の認可を受けて設立された確定給付企業年金制度です。
この制度は、企業が従業員の将来のために資産形成を支援することを目的としています。
本記事では、はぐくみ企業年金の基本的な考え方や特徴、その魅力、さらには具体的な仕組みについて詳しく解説します。
この記事で分かること
- はぐくみ企業年金の概要
- はぐくみ企業年金の活用方法
はぐくみ企業年金とは?
それではまず最初に、はぐくみ企業年金がどのような制度であるかを見ていきましょう。
具体的には、他の企業年金とどのように異なるのかを解説します。
企業年金については、以下の記事で詳しくまとめています。
はぐくみ企業年金の基本概念
「はぐくみ企業年金」は、福祉や医療などのエッセンシャルワーカーの福利厚生や資産形成を支援するために創設された、日本の中小企業向けの企業年金制度です。
この制度では、個別に年金制度を持つことが難しい企業でも、従業員が退職後に安定した生活資金を得られるようサポートすることを目的としています。
はぐくみ企業年金の4つの特徴
はぐくみ企業年金の主な特徴を、以下に4つ挙げてみます。
①共同運営
複数の中小企業が協力して年金基金を設立・運営することで、コストを削減し、安定した資産運用を実現しています。
➁エッセンシャルワーカー向け
特に福祉や医療分野で働く従業員を対象に、福利厚生や資産形成に特化した支援が行われています。
③資産運用の委託
国内の大手生命保険会社などに資産運用を委託することで、加入者は運用の煩わしさから解放され、より手軽に制度を利用できる仕組みです。
④退職後の生活支援
従業員が退職後も安心して生活できるよう、生活資金の確保を目的としています。
中小企業退職金共済との特徴の違い
退職時に活用される制度の一つに、中小企業退職金共済があります。
ここでは、中小企業退職金共済とはぐくみ企業年金の特徴の違いを以下の表にまとめてみます。
項目 | はぐくみ企業年金 | 中小企業退職金共済 |
---|---|---|
根拠法 | 確定給付企業年金法 | 中小企業退職金共済法 |
加入年齢 | 70歳未満 | 制限なし |
加入制限 | 役員も拠出可 | 役員は拠出不可 |
運用 | 基金が資産を運用 | 機構が資産管理・運用 |
税制優遇 | 有り | 有り |
社会保険料 | 軽減可 | 軽減不可 |
拠出金 上限/月 | 1,000円~給与の20%(上限40万円) | 5,000円~30,000円の16段階 |
受給額 | 運用成績により変動しない | 運用成績により変動しない |
受取り | 一時金又は年金/退職時、休職時、育児・介護休業時にも受取り可能 | 一時金又は分割払い/退職後に受取 |
はぐくみ企業年金の魅力
では次に、はぐくみ企業年金の魅力について見ていきましょう。
はぐくみ企業年金を利用することで、具体的にどのようなメリットが得られるのかをお伝えします。
加入者側のメリット
加入者側のメリットには、以下3点が挙げられます。
①元本保証
はぐくみ企業年金では、加入者の元本が保証され、安全性の高い「一般勘定」を活用して資産運用を行います。この仕組みにより、資産の保全性が高いポートフォリオを実現し、リスクを最小限に抑えながら安心・安全な運営を目指しています。
➁税負担の軽減
加入は任意ですが、選択制企業年金の仕組みにより、税金や一部の社会保険料の負担を軽減しながら、退職金としての資産形成が可能です。
③非正規雇用者も加入可能
加入対象者は70歳未満の厚生年金被保険者で、パートやアルバイトなどの非正規雇用者も加入が可能です。
一般勘定とは、個人保険や企業年金資産などの一般の保険料を合同して、一つの勘定で運用する仕組みのことです。
経営者側のメリット
経営者側のメリットには、以下2点が挙げられます。
①実質的な負担軽減
他の企業年金制度では、会社が掛金を負担することが一般的ですが、はぐくみ企業年金では実質的な負担を抑えることが可能です。導入には「前払い退職金制度」が必要であり、労使合意のもとで給与の一部を減額し、その分を「前払い退職金手当」として掛金の原資を確保します。
➁採用力の強化と離職防止
充実した退職金制度や福利厚生制度は、優秀な人材の獲得や定着に貢献し、求人応募数の増加も期待できます。
「前払い退職金制度」は、在職中の従業員の給与や賞与に退職金相当額を上乗せして支給する仕組みです。
前払い退職金制度に関するおすすめサイト
・前払い退職金制度とは?企業と従業員のメリット・デメリットを解説 | あしたの人事オンライン
はぐくみ企業年金の加入条件と手続き
では最後に、はぐくみ企業年金の加入条件と手続きについて見ていきます。
はぐくみ企業年金は原則、厚生年金の適用事業所であれば業種や業界を問わず導入できますが、加入にはいくつかの条件が必要となります。
加入条件と手続きの流れ
はぐくみ企業年金の加入条件と導入手続きについて、以下にポイントをまとめます。
はぐくみ企業年金の加入条件
原則
・厚生年金の適用事業所であれば、業種や業界を問わず導入可能です。
加入対象者
・厚生年金被保険者が対象です。
・パートやアルバイト、経営者や役員も加入できます。
・年齢制限は70歳未満です。
導入手続き
・株式会社ベター・プレイスが加入促進業務を担当し、定められた加入要件を満たす必要があります。
導入制限
以下の条件に該当する場合、はぐくみ企業年金を導入できませんので注意が必要です。
財務状態
・債務超過である場合
企業の倫理
・公序良俗に反する企業(反社会的勢力である企業)
必要な規定の未整備
・「就業規則」や「給与規程」、「育児・介護休業規程」がない場合
法人格の条件
・個人事業主(法人格のない個人事業所)
・役員のみの法人
・厚生年金に加入していない役員がいる法人、または厚生年金加入対象者が3名未満の法人
・設立1年未満の法人
・厚生年金適用年月日から1年を経過していない事業所
業種の制限
・風営法の規制対象業種(接待を伴う飲食店、パチンコ、ゲームセンターなど)
はぐくみ企業年金について、利用方法や詳細をさらに知りたい方は、以下のサイトをご参照ください。
チェックサイト
・はぐくみ企業年金の導入要件とは?(会社や事業所の条件など) | はぐくみ企業年金ナビ
加入者についての注意事項
加入者に関わる注意事項を以下の4点にまとめました。
①従業員への説明会の実施
はぐくみ企業年金を導入する際、法令に基づいて従業員(厚生年金被保険者)への説明会を実施する必要があります。
説明会は株式会社ベター・プレイスの専門スタッフが担当します。
➁導入月に最低1名の加入者が必要
利用開始月には、適用事業所ごとに最低1名の加入者が必要です。
③最低賃金の遵守
「選択制確定給付企業年金」を採用しているため、掛金拠出後の「基本給+選択給」が最低賃金に抵触しないよう注意が必要です。
最低賃金は都道府県によって異なります。
④役員報酬を原資とする場合の注意
経営者や役員層が役員報酬を原資に掛金拠出を考える場合、加入や掛金変更のタイミングには注意が必要です。
具体的には、はぐくみ企業年金導入後の最初の役員報酬改定月(年1回)が加入のタイミングとなります。
チェックサイト
・はぐくみ企業年金の導入要件とは?(会社や事業所の条件など) | はぐくみ企業年金ナビ
まとめ
今回の記事のまとめです。
はぐくみ企業年金は、福祉や医療などのエッセンシャルワーカーの福利厚生と資産形成を支援するために、中小企業向けに設立された企業年金制度です。
この制度は、個別の年金制度を持つことが難しい企業でも、従業員が退職後に安定した生活資金を得られるようにサポートすることを目的としています。
基本的に、厚生年金の適用事業所であればこの制度を導入可能ですが、加入者は厚生年金被保険者に限られ、特定の条件を満たす必要があります。
また、導入できない特定の条件に該当する企業もあるため、事前の確認が重要です。