年金の繰り下げ受給を選択することには多くのメリットがあります。
受給開始年齢を遅らせることで、将来的な受給額が増加し、より安定した老後の生活資金を確保できる可能性が高まります。
また、繰り下げ受給を利用することで、老後の生活スタイルや趣味に費やす資金を増やし、より充実したライフスタイルを楽しむことが可能です。
本記事では、繰り下げ受給の具体的なメリットを詳しく解説し、選択肢としての価値を探ります。
この記事で分かること
- 年金の繰り下げ受給を選択するメリット
- 繰り下げ受給のシミュレーション
繰り下げ受給の仕組み
それではまず最初に、年金の繰り下げ受給の仕組みについて見ていきましょう。
第三の年金については、以下の記事で詳しくまとめています。
老齢基礎年金と厚生年金の関係
老齢基礎年金と厚生年金は、日本の公的年金制度の2本の柱であり、老後の生活資金を支えるために設計されています。
厚生年金は、老齢基礎年金に上乗せされる形で支給されます。
会社員や公務員は、65歳以降に老齢基礎年金と厚生年金の両方を受け取ることになります。
二つの特徴を、以下の表に簡潔にまとめます。
項目 | 老齢基礎年金 | 厚生年金 |
---|---|---|
対象者 | 自営業者、フリーランス、専業主婦、会社員など、全国民が対象 | 会社員、公務員などの給与所得者が対象 |
受給資格 | 20歳から60歳までに国民年金保険料を納めること | 企業や公的機関が保険料を従業員と折半して支払う |
受給開始年齢 | 原則65歳(繰り上げ受給・繰り下げ受給が可能) | 原則65歳(基礎年金に上乗せして支給される) |
受給額 | 一定額(2024年時点で満額約6万8,000円) | 働いた期間や給与額に応じて報酬比例で変動する |
老齢基礎年金と厚生年金、別々に繰り下げ受給ができる
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、65歳で受け取るのではなく、66歳から75歳の間に繰り下げて受給することが可能です。
この繰り下げ受給は、老齢基礎年金と老齢厚生年金それぞれについて別々に選択でき、繰り下げることで年金額が増加します。
増額された年金額は受給期間中に変動しないため、安定した収入を確保することができます。
増額率は最大で84%に達することがあります。
具体的な計算方法は以下の通りです。
増額率(最大84%) = 0.7% × (65歳に達した月から繰り下げ申出月の前月までの月数)
繰り上げ受給は、同時に受給することはできません。
年金制度にについてより詳しい情報を知りたい方は、以下のサイトをご参照ください。
・年金制度の仕組みと考え方_第3_公的年金制度の体系(年金給付)
・令和6年4月分からの年金額等について|日本年金機構
繰り下げ受給を選択するメリットとは?
では次に、年金の繰り下げ受給を選択するメリットについて見ていきましょう。
年金は原則65歳から受給できますが、65歳以降に繰り下げて受給することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
繰り下げと同様に、繰り上げ受給も可能です。
繰り上げ受給については、以下の記事でわかりやすくまとめています。
4つのメリット
繰り下げ受給を選択するメリットはいくつかありますが、以下にその中から4つの主なメリットを挙げます。
①年金額の増加
繰り下げ受給を選ぶことで、受給額が増額されます。65歳から受け取るのではなく、66歳以降に受け取ることで、最大で84%まで年金額が増える可能性があります。
➁長寿リスクへの備え
繰り下げ受給は、長寿リスクに対応する手段となります。将来的に高額な年金を受け取ることで、老後の生活費を安定させることができ、長い老後を安心して過ごせるようになります。
③生活費の調整
繰り下げ受給を選ぶことで、他の収入源(例:貯蓄や退職金)での生活を可能にし、年金受給を遅らせることで、より計画的な生活費の管理ができます。
④税金面でのメリット
受給開始を遅らせることで、年金を受け取る前に他の収入を得ることができ、課税対象の所得を調整できる場合があります。これにより、総所得を低く抑え、税負担を軽減する可能性があります。
受給額の増加
先ほど、繰り下げ受給のメリットとして受給額の増加を挙げました。
年金を繰り下げて受給する最大のメリットは、この受給額の増加にあります。
ここでは、その具体的な算出方法について見ていきます。
ポイントとなるのは、繰り下げた月数に応じて受給額が増加するという点です。
具体的には、繰り下げた月数に0.7%を掛けた増加分が適用されます。
たとえば、一年間繰り下げる場合の計算は以下の通りです。
0.7% × 12か月 = 8.4%
このように、繰り下げることで受給額が1年で8.4%増加します。
以上を踏まえて、繰り下げ増額率の早見表を以下にまとめました。
請求時の年齢(繰り下げた月数) | 増額率 |
---|---|
66歳(12か月) | 8.4% |
67歳(24か月) | 16.8% |
68歳(36か月) | 25.2% |
69歳(48か月) | 33.6% |
70歳(60か月) | 42.0% |
71歳(72か月) | 50.4% |
72歳(84か月) | 58.8% |
73歳(96か月) | 67.2% |
74歳(108か月) | 75.6% |
75歳(120か月) | 84.0% |
出典:日本年金機構『年金の繰り下げ受給』
繰り下げ受給を選択したほうがいいケースとは?
繰り下げ受給を選択することが望ましいケースについて考えてみましょう。
これまでお伝えしたように、繰り下げ受給には多くのメリットがありますが、選択する際にはいくつかの注意点も存在します。
ライフプランに基づく受給戦略
繰り下げ受給を選択することが望ましいケースには、大きく分けて以下の3点が考えられます。
①年金受給を急がない場合
年金をすぐに受け取る必要がない場合、繰り下げ受給が有効です。すでに給与や投資など別の収入源があり、特に退職後も働く意欲がある方に適しています。
➁経済的に余裕がある場合
現在の生活費が他の収入で賄える状況であれば、繰り下げ受給を選ぶことで将来的な年金額を増加させ、経済的な安定を図ることができます。
③年金の税負担を考慮する場合
年金受給開始時の税負担を軽減したい方は、繰り下げ受給を選択することで受給開始時期を遅らせ、結果的に受け取る年金額を増やすことが可能です。
年金について相談したい場合は?
年金について相談したい場合には、年金事務所に問い合わせるだけでなく、ファイナンシャルプランナー(FP)を活用するのも一つの手段です。
FPにシュミレーションを行ってもらう
ファイナンシャルプランナー(FP)に、年金受給のシミュレーションをしてもらいましょう。
FPは、個々のライフプランや財政状況に基づいて、最適な年金受給プランを提案します。
具体的には、年金受給に伴う税金や社会保険への影響を考慮したシミュレーションを行い、最適な受給額や受給タイミングの把握をサポートします。
また、FPは年金受給にとどまらず、保険や資産運用などお金全般に関する豊富な知識を持っているため、トータル的なライフプランのアドバイスを受けることができます。
これにより、将来的な経済状況やライフイベントに基づくリスクを評価し、年金をどのように活用するかについて具体的なアドバイスを得ることができます。
まとめ
今回の記事のまとめです。
繰り下げ受給には多くのメリットがあります。
主な利点は、年金額の増加です。
受給開始を遅らせることで、老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給額が増加し、将来的な生活の安定に寄与します。
この繰り下げ受給は、65歳ではなく66歳から75歳の間に行うことができ、各年金について別々に選択できる点が特長です。
繰り下げ受給を選択することが望ましいケースには、経済的に余裕がある場合や、年金の税負担を軽減したい場合などが考えられます。
年金について相談したい場合には、ファイナンシャルプランナー(FP)に、シミュレーションを依頼することが効果的です。