近年、「働き控え」という言葉が注目を集めています。
これは、パートやアルバイト、専業主婦の方が一定の収入を超えないように働き方を調整することを指します。
しかし、多くの方が103万円の壁や130万円の壁を意識するあまり、知らないうちに損をしてしまうケースが増えているのです。
本記事では、働き控えによる損失を防ぐためのリスク管理のポイントを詳しく解説します。
家計の安定や将来の資産形成に大きく影響する重要なテーマですので、ぜひ最後までお読みいただき、今後のライフプランの参考にお役立てください。
この記事で分かること
- 働き控えの概要
- 働き控えによる損失とそのリスク
- 働き控えをやめて家計を改善する3つのステップ
働き控えとは?その背景と原因を解説
それでは最初に、働き控えの概要について見ていきましょう。
日常生活では『働き控え』という言葉を耳にすることは少ないかもしれませんが、実際には多くの人が選択している働き方の一つです。
働き控えの定義とその現状とは?
「働き控え」とは、世帯全体の税金や社会保険料の負担を抑えるため、意図的に労働時間や収入を制限する行動を指します。
特に日本では、扶養控除や社会保険の適用基準が所得に連動しているため、一定の収入ラインを超えると税負担が増加します。
そのため、多くの人がそのラインを超えないよう収入を調整する傾向があります。
働き控えが発生する主な要因には、以下の3つがあります。
①103万円の壁(所得税)
パートやアルバイトの年間収入が103万円以下であれば、所得税が非課税となります。そのため、103万円を超えないように収入を調整し、過剰な納税を避ける人が多いです。
➁130万円の壁(社会保険)
年間収入が130万円を超えると、被扶養者から外れ、自分で社会保険料を負担する必要があります。その結果、手取り額が減少するため、130万円以内に収入を抑えるケースが見られます。
③106万円の壁(社会保険適用拡大)
週20時間以上勤務し、かつ年収が106万円を超える場合、従業員数101人以上の企業では厚生年金保険と健康保険への加入が義務付けられます(※2024年10月以降は従業員数51人以上の企業が対象に拡大)。
「103万円の壁」については、以下の記事で詳しく解説しています。
106万円の壁と130万円の壁の違い
「106万円の壁」と「130万円の壁」は、それぞれ異なる社会保険の適用基準に関連しており、これらの基準を超えると収入が減少する可能性があります。
それぞれの条件を確認してみましょう。
106万円の壁
加入制度
厚生年金保険・健康保険
対象
従業員101人以上の企業に勤務し、週20時間以上働いている場合(2024年10月以降、対象企業が50人以上に拡大)
影響
年収106万円を超えると、厚生年金保険と健康保険への加入が義務付けられます。その結果、保険料が手取りから差し引かれ、収入が減少します。
130万円の壁
加入制度
国民年金・国民健康保険
対象
従業員100人以下の企業などに勤務している場合(106万円の壁に該当しない場合)
影響
年収130万円を超えると、配偶者の扶養から外れ、国民年金および国民健康保険に加入する必要があります。この場合、社会保険料が自己負担となり、手取り収入が減少します。
130万円の壁対策として、一時的に収入が130万円を超えても、事業主がその旨を証明すれば、引き続き扶養に入ることが可能です。
130万円の壁対策に関する参照サイト
・年収の壁・支援強化パッケージ|厚生労働省
103万円・130万円の壁がもたらす影響とは
「103万円の壁」は主に所得税、「130万円の壁」は社会保険料に関する基準です。
これらの壁を意識しながら働くことで、家計の負担が軽減され、より効率的な家計管理が可能になります。
103万円の壁
①所得税が非課税
年間収入が103万円以下であれば、給与所得控除(55万円)と基礎控除(48万円)により、所得税がかかりません。
➁配偶者控除の適用
収入が103万円以内の場合、配偶者が「配偶者控除」を受けられ、世帯全体の所得税が軽減されます。
130万円の壁
①社会保険料の負担発生
年間収入が130万円を超えると、配偶者の扶養から外れ、自身で健康保険や厚生年金に加入する必要があり、手取り収入が減少します(収入の約14%が保険料として控除)。
➁家計への影響
社会保険料の支払いにより、世帯全体の可処分所得が減少し、家計管理に影響を与えます。
配偶者控除や可処分所得について、詳しくは以下の記事をご参照ください。
働き控えによる損失とは?知っておくべきリスク管理
先ほどの章で年収の壁それぞれの特徴について解説しましたが、その象徴となるリスクは収入額の減少です。
年収が一定のラインを超えることで、所得税や社会保険料の負担が増加し、手取り収入が減少する恐れがあります。
この章では、収入減少が家計に与える影響について考えてみたいと思います。
収入減少による家計への影響
収入減少による家計への影響は、特に「年収の壁」を越えた場合に顕著に現れます。
所得税や社会保険料が増加すると、手取り収入が減少し、生活費や貯金計画、将来の資産形成に影響を及ぼす可能性があります。
具体的には、以下2つのような影響があります。
1. 所得税の増加
年収が一定額を超えると、課税対象となる所得が増え、所得税が増加します。例えば、「103万円の壁」を超えると、配偶者控除が適用されなくなり、その分税負担が増えます。このような増税は、家計の自由に使えるお金が減ることを意味します。
2. 社会保険料の負担増
年収が「130万円の壁」などを超えると、社会保険に加入することが義務付けられ、健康保険や厚生年金保険の保険料を自己負担することになります。社会保険料は収入の約14%程度になるため、手取りが大きく減少することになります。これにより、生活費に充てる金額が減ることに加えて、貯蓄や投資に回す資金が減少する可能性があります。
130万円の壁対策に関する参照サイト
・年収の壁・支援強化パッケージ|厚生労働省
将来受け取る年金への影響
年収の壁範囲内で働くことで納税額を抑えるメリットがありますが、同時に将来の年金受給額が減少するリスクも伴います。
特に、働き控えが続く場合、老後の生活資金に大きな影響を及ぼす可能性があります。
①厚生年金への加入期間が短くなるリスク
働き控えによって社会保険(特に厚生年金)への加入期間が短くなると、将来受け取る年金額が減少します。年金額は過去の収入に基づいて計算されるため、加入期間が短いと十分な年金を受け取れない可能性があります。
➁年金受給額の減少による老後の生活資金不足
年金受給額が少ないと、老後に必要な医療費や介護費用に充てる資金が不足する可能性があります。今後、老後の生活費や医療・介護費用が膨大になることが予想されるため、年金受給額が減少すると、貯蓄を切り崩したり、働き続けなければならない状況に陥る可能性があります。
現在の納税額を減らすことができる一方で、将来の年金受給額が減少するリスクも存在するということですね。
そうです。そのため、第三の年金や資産形成は重要な手段となります。
働き控えを解消し、家計を改善する3つの実践ステップ
では最後に、働き控えを解消し、家計を改善する方法について見ていきましょう。
先ほどの章で、第三の年金や資産形成の活用について触れましたが、今回はそれら以外の方法を3つご紹介します。
家計見直しと収支バランスの再確認
家計を改善するためには、単に支出を削減するだけでなく、収支のバランスを見直し、効率的にお金を使う方法を取り入れることが重要です。
収入源の多角化
収入源が一つに依存していると、安定性に欠けることがあります。副収入や投資など、複数の収入源を確保することで、家計の安定性を高め、予期しない支出にも柔軟に対応できるようになります。
支出の優先順位を見直す
必要な支出と不必要な支出を整理し、優先順位をつけて予算を組み直します。住宅ローンや教育費、医療費などの重要な支出は確保し、そのほかの余分な支出や贅沢を減らすことが重要です。
支出の未来予測と先取り管理
現在の支出だけでなく、将来的に必要となる支出を予測し、それに備えるための積立や資産運用を計画します。こうした準備によって、将来のリスクに備えた家計管理が可能となり、より安心して生活設計を行えるようになります。
収入アップを目指す資格取得やスキル磨き
働き控えを解消し、家計を改善するためには、資格取得やスキル磨きも有効な手段です。
これらを活用することで、自身の市場価値を高め、収入アップのチャンスが広がります。
例えば、ITスキルや語学力、医療・福祉の資格など、自身の業界に合わせた資格を取得することは、転職や昇進を有利に進めるために効果的です。
さらに、専門的なスキルを磨くことで、フリーランスとしての独立や副業の選択肢も広がり、収入の増加が期待できます。
資格取得やスキルアップに関する詳細は、以下の記事をご参照ください。
ファイナンシャルプランナーに相談して最適なプランを立てる
ファイナンシャルプランナーに相談し、最適なプランを立てることは、働き控えを解消し、家計を改善するために効果的な方法です。
具体的には、以下の支援を受けることができます。
家計全体の見直し
ファイナンシャルプランナーは家計の収支状況を総合的に分析し、無駄な支出を削減する方法を提案します。また、将来の生活設計に基づいた支出計画を立て、効率的にお金を管理する方法をアドバイスしてくれます。
税金対策と節税アドバイス
働き控えを解消して収入が増えると、税金の負担が増える可能性があります。ファイナンシャルプランナーは、ふるさと納税や確定拠出年金(iDeCo)など、税負担を軽減するための節税方法を提案し、効果的な対策を講じてくれます。
資産運用と投資のアドバイス
将来の資産形成に向けて、ファイナンシャルプランナーは投資計画の立案をサポートします。リスク許容度や資産の目的に応じたアドバイスを行い、長期的に安定した資産運用を目指すための適切な投資方法を提案してくれます。
将来のライフイベント(住宅購入、教育資金、老後資金など)について具体的な数字を明確にすることは、家計計画を立てるうえで非常に重要です。
まとめ
今回の記事のまとめです。
「働き控え」とは、税金や社会保険料を抑えるために意図的に収入を制限することです。
日本では、103万円、130万円、106万円の「収入の壁」があり、これを超えると税金や社会保険料の負担が増えます。
働き控えにより短期的には負担軽減が期待できますが、長期的には年金受給額が減少し、老後の生活資金不足につながるリスクがあります。
そのため、働き控えの影響を避けるためには、資格取得やスキルアップで収入を増やすことや、ファイナンシャルプランナーに相談して将来の資産形成を計画することが重要です。