後見人は、被後見人(本人)の財産を管理する立場ですが、『お金を自由に使えるのでは?』と誤解されることも少なくありません。
しかし、実際には厳格なルールがあり、使い道には制限があります。
また、医療行為の同意や相続手続きなど、後見人であっても対応できないケースもあるため、事前に正しく理解しておくことが大切です。
本記事では、FPの視点から、後見人の具体的な役割や『できること・できないこと』を分かりやすく解説していきます。
この記事でわかること
- 後見人の仕組み
- 後見人ができること
- 後見人ができないこと
後見人とは?基本的な役割を理解しよう
それではまず、後見人の基本的な役割について見ていきましょう。
後見制度には代表的な3つの種類があり、まずはその仕組みを詳しく解説していきます。
後見制度の仕組みとは?
後見制度とは、判断能力が不十分な方(高齢者や障がいのある方など)が自分で行うことが難しい、財産管理や生活支援をサポートするための制度です。
この制度に基づき後見人が選任され、被後見人(本人)の生活や財産を支援します。
後見人は、家庭裁判所の監督を受けながら、財産管理や医療・福祉の手続き、日常的な支援を行います。
後見制度の目的
後見制度は、本人の自立を尊重しつつ、必要に応じたサポートを提供することを目的としています。
これにより、社会的孤立や経済的困難を防ぎ、安心して生活できる環境を創出します。
後見人が行う支援内容は、本人の状況や判断能力によって異なるため、その都度、適切な支援を選択することが求められます。
参照サイト
・成年後見人等の選任と役割
後見人の3つの種類
後見制度は大きく分けて、以下の3つの種類に分類されます。
成年後見制度
判断能力が著しく低下した人に対して、成年後見人がその人の財産管理や生活支援を行います。
この制度には、さらに「後見」「保佐」「補助」といった3つの段階があり、本人の判断能力に応じて支援の内容や範囲が異なります。
任意後見制度
判断能力が十分にあるうちに、被後見人自身が後見人を選び、契約を交わすことで、将来的に判断能力が低下した際に支援を受けられる制度です。
後見人が選ばれる前に契約を結ぶため、本人の意思を反映させることができます。
法定後見制度
主に障がいのある方に対して、生活や仕事の支援を行う制度です。
後見人と異なり、支援者が直接的な管理を行うのではなく、支援が必要な状況に応じてサポートが行われます。

後見人制度に関する質問や手続きについては、厚生労働省の以下のサイトでご確認いただけます。
参照サイト
厚生労働省:『相談窓口のご案内』
後見人ができること|具体的な役割を解説
次に、後見人が行えることについてみていきます。
冒頭でもお伝えした通り、後見人にはできることとできないことがあるため、この章では後見人が行えることについて一緒に学んでいきましょう。
後見人ができる5つのこと
後見人は、本人の最善の利益を考え行動する必要があります。
また、後見人の権限は、裁判所の監督のもとで行われるため、任命や変更に際しては法律に基づいた手続きが必要です。
上記を踏まえて、後見人ができることには、以下5つのようなものがあります。
1. 財産管理
後見人は、本人の財産を適切に管理し、その利用方法について責任を持ちます。
これには、預金や貯金の管理だけでなく、不動産の売買や管理、税金の支払い、保険の管理、投資の判断などが含まれます。
後見人は、本人の財産が不適切に使われないよう、十分な注意を払い、適切な管理を行うことが求められます。
2. 契約の締結
後見人は、本人が自ら契約を結ぶ能力がない場合、代理として契約を結ぶことができます。
賃貸契約や医療契約をはじめ、売買契約や金融商品の契約、労働契約なども含まれます。
契約内容が本人にとって不利益でないか、慎重に判断し、本人の最善の利益を守ることが求められます。
3. 医療・福祉の支援
後見人は、本人が適切な医療や福祉サービスを受けられるよう支援します。
具体的には、福祉サービスの利用契約の締結や医療費の支払い、保険の手続きなどを行います。
ただし、医療行為への同意権はなく、治療方針の決定は医師や家族と相談しながら進めます。
4. 生活支援
後見人は、本人が日常生活を送るために必要な支援を提供します。
これには、買い物や食事の準備、生活必需品の手配、公共料金の支払いなどが含まれます。
ただし、後見人は直接これらの行為を行うことはできません。
そのため、介護タクシーの手配やホームヘルパー契約を通じて、本人が適切なサービスを受けられるよう支援します。
5. 法的手続きの代理
後見人は、本人の法的権利や義務を守るため、裁判所への申請や法的手続きを代理で行います。
税務申告や年金の手続き、社会保険の申請、さらには遺産分割協議の代理を行うこともあります。
また、裁判所からの指示を受けて、必要な手続きや報告を行うことも求められます。

後見人ができることのポイントをまとめると、以下のような形になります。
後見人ができることのポイント
・財産の管理
・契約の締結
・医療や福祉の支援
・日常生活の支援
・法的手続きの代理
後見人ができないこと|誤解されやすいポイント
後見人が行えない行為のひとつに、遺言書の作成や婚姻届の提出などがあります。
最後に、後見人ができない行為について確認していきましょう。
後見人ができない5つのこと
後見人は、医療行為への同意や延命治療の中止の決定を行うことはできません。
また、本人に代わって結婚や養子縁組をする、遺言を書く、選挙で投票することも認められていません。
後見人の役割は、財産管理や福祉サービスの契約などに限られ、本人の人格に関わる重要な判断はできない仕組みになっています。
後見人ができないことには、次の5つがあります。
1. 事実行為の直接提供
事実行為とは、被後見人の生活や健康管理のために直接労務を提供する行為です。
後見人はこれらを直接行うことはできません。
例えば、施設から病院への送迎、生活用品の買い物、掃除や洗濯、入浴介助などは、後見人が行うのではなく、介護タクシーの手配やホームヘルパー契約を通じてサポートします。
2. 身分行為の代理
身分行為とは、被後見人の法律上の身分に関する行為で、例えば養子縁組、婚姻届の提出、離婚届の提出、子の認知などが含まれます。
これらの行為は後見人が代理して行うことはできません。
身分に関する行為は本人の意思が最も重要であり、他人が代わりに行うことは適切ではないためです。
3. 遺言書の作成
後見人は、被後見人に代わって遺言書を作成することはできません。
遺言書は本人の自由な意思に基づくものであり、その作成は後見人の権限外です。
4. 保証人になること
後見人は、被後見人が入院や施設に入所する際の保証人になることができません。
後見人は本人と同じ立場にあり、自分自身の保証をすることができないため、保証人としての役割を担うことはできません。
また、本人の債務に関しても保証人にはなれません。
5. 医療行為に関する具体的な同意
後見人は、治療や入院手続きに関する支援を行うことはできますが、手術などの具体的な医療行為に対する同意を行うことはできません。
また、本人が意思表示できない場合において、延命治療の拒否や中止、臓器移植に関する意思表示を後見人が代わりに行うこともできません。
ただし、軽微な医療行為(健康診断や検査など)については同意することができる場合もあります。

成年後見人は本人と同一の立場にあるため、遺言書の作成や相続手続きの代理を行うことはできないと覚えておきましょう。
後見人ができないことのポイント
・身分行為の代理
・遺言書の作成や相続手続きの代理
・保証人になること
・具体的な医療行為の同意
まとめ
今回の記事のまとめです。
後見制度は、成年後見制度、任意後見制度、法定後見制度の3つに分類されます。
後見人ができることには、財産の管理、契約の締結、法的手続きの代理などが含まれます。
一方、後見人ができないことには、身分行為(養子縁組、婚姻、離婚など)、遺言書の作成や相続手続きの代理、保証人になることが含まれます。