雑損控除は、災害や盗難、その他の不測の事態で発生した損失を税金の控除対象にする制度です。
これにより、予期せぬ出来事で経済的に大きな影響を受けた場合でも、負担が一定程度軽減されます。
しかし、具体的にどのような損害が雑損控除の対象となるのか、どのように申告すれば良いのか、わからないことも多いかもしれません。
この記事では、雑損控除に含まれる損害の種類や申告方法、注意点について詳しく解説していきます。
この記事でわかること
- 雑損控除の概要
- 雑損控除の対象資産
- 雑損控除を利用する際の手続きと注意点

この控除を日常のどの場面で活用できるのか、一緒に学んでいきましょう。
雑損控除とは?基本的な仕組みを理解しよう
雑損控除は、医療費控除や生命保険料控除とは異なり、日常生活ではあまり触れる機会が少ないため、具体的にどのような損失が対象となるのかイメージしづらいかもしれません。
まずは、雑損控除の基本的な概要を見ていきましょう。
雑損控除の定義と目的
雑損控除は、災害や盗難などの予期せぬ損害を受けた場合に所得税の負担を軽減する制度です。
台風や地震といった自然災害のほか、盗難や横領などの犯罪による損失も、一定の条件を満たせば控除の対象になります。
この制度を活用することで、課税所得が減り、税負担が軽くなるため、被害を受けた人の生活再建を支援する役割を果たします。
参照サイト
・国税庁『No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)』
雑損控除の適用を受けるための条件とは?
雑損控除の対象となるのは、以下の2つの条件を満たす場合です。
①資産の所有者
納税者本人、または納税者と生計を一にする配偶者や親族で、その年の総所得金額等が48万円以下の者。
②資産の種類
生活に通常必要な資産が対象です。ただし、事業用の資産や別荘、貴金属などで1個または1組の価額が30万円を超えるものは対象外となります。
対象となる資産と対象外の資産の一例
以下に、雑損控除の対象となる資産と対象外の資産を、それぞれ3つずつご紹介します。
対象となる資産の例
・生活のために使用する住宅や門、塀
・生活用の家具、什器、家電など
・生活に使う車
対象とならない資産の例
・別荘など、生活以外の目的で所有する住宅や門
・1組あたりの単価が30万円を超える美術品など、生活に必要ではないもの
・事業用の車や備品、什器など

生活に必要な資産かどうかが大きなポイントになります。
雑損控除の求め方
雑損控除の控除額は、以下2つの計算式で算出したうち、いずれか大きい金額となります。
Ⓐ差引損失額 - 総所得金額等 × 10%
Ⓑ差引損失額のうち災害関連支出の金額 - 5万円
次に、具体的な計算例を以下に1つご紹介します。
条件
損害額(災害関連支出を含む):200万円
受け取った保険金:50万円
総所得金額等:500万円
災害関連支出(原状回復費用など):30万円
計算式Ⓐ
(損害額 + 災害関連支出 - 保険金)-(総所得金額等 × 10%)
=(200万円 + 30万円 - 50万円)-(500万円 × 10%)
= 180万円 - 50万円
= 130万円
計算式Ⓑ
災害関連支出 - 5万円
=30万円 - 5万円
= 25万円
よって、雑損控除の適用額は130万円となります。(計算式Ⓐの方が大きいため)

次の章では、雑損控除の具体的な損害内容について見ていきましょう。
雑損控除に含まれる具体的なものとは?
先ほどお伝えした通り、雑損控除には日常生活で受けた様々な損害が含まれます。
次に、この章で雑損控除に含まれる具体的な対象を見ていきましょう。
雑損控除の対象となる損失のケース5つ
お伝えしている通り、雑損控除は日常生活で起こる様々な損害に対応しています。
ここでは、その中から代表的な5つのケースを挙げてみます。
1. 自然災害による損害
台風、地震、洪水、土砂崩れなど、天災による損害が含まれます。
家屋の損傷や財産の破損、農作物の被害などが該当します。
具体例
・台風で屋根が吹き飛ばされ、家の中に雨水が浸入した場合。
・地震で壁にひびが入り、建物の一部が崩れた場合。
・洪水で家具や家電が水没した場合。
2. 火災による損害
自宅や家庭内の財産が火事で損害を受けた場合に、雑損控除の対象となります。
具体例
・キッチンでの火災によって家電や家具が焼けた場合。
・電気配線のショートで住宅の一部が焼失した場合。
3. 盗難・横領による損害
盗難や横領で失った財産も含まれます。
特に、家の中の物品が盗まれた場合や、自己所有の物が不正に持ち去られた場合が該当します。
具体例
・家の中にある家具や家電、現金が盗まれた場合。
・外出先で自身の車が盗まれた場合。
4. 事故による損害
交通事故などで損傷した自動車や家屋、または物品の損害も対象となります。
具体例
・交通事故で車両が大きく損傷した場合
・家の外壁が事故で破損した場合
・庭の木が事故で倒れた場合
5. その他予期しない損害
害虫や害獣によって生活用の建物に被害を受けた場合も、雑損控除の対象となります。
具体例
・シロアリによる住宅への被害の場合
合わせて読みたいコラム
・シロアリによる損害も雑損控除の対象に?雑損控除についての活用法
事業に関する損害は以下の3つで備える
事業用資産が雑損控除の対象外となる理由は、雑損控除が個人の生活に必要な資産に対して適用されるためです。
税制上、事業用資産は通常、事業活動に関連した損失として扱われるため、損失の補填には以下の3つの制度が利用されます。
①損失の繰越控除
事業の損失を翌年以降の税金で控除することができ、最大7年間繰り越せます。
②減価償却資産の評価損
事業用資産が損害を受けた場合、その評価額の減少分を申告し、税務上で損失として扱うことができます。
③災害損失の特別控除
自然災害やその他の不測の事態で事業に損害が発生した場合、特別な税控除が適用されます。

控除の適用範囲は意外とわかりにくいものです。
控除範囲について詳しく知りたい方は、以下FPサイトをご活用ください。
FPに相談できるサイト
・家計見直しに特化したFP無料相談
雑損控除を利用する際の手続きと注意点
雑損控除を利用するには、まず損失の内容を証明する書類を準備し、その後確定申告という流れが一般的です。
最後に、雑損控除を利用する際の手続きと注意点について見ていきましょう。
雑損控除の申告方法と必要書類
雑損控除を受けるためには、確定申告を行う必要があります。
雑損控除を申請する際に必要な書類は、損害の内容によって異なりますが、一般的に以下6つの書類が求められます。
1. 確定申告書
確定申告を行うために必須の書類です。
税務署で入手するか、国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。
2. 損害を証明する書類
損害を証明するための書類は、以下の損害ごとに異なります。
Ⓐ自然災害(地震、台風、洪水など)の場合
・被災証明書
市区町村役場で発行される、被災を証明するための書類。
・災害証明書
自然災害で受けた損害を証明するための書類。
・保険金の支払通知書
保険会社から支払われた金額や内容の記載書類。
Ⓑ盗難や詐欺の場合
・受理証明書や事故報告書
警察署で発行される、交通事故などの被害を証明する書類。
・盗難された財産や詐欺に関連する損害額を証明できる書類
(領収書や購入明細書など)。
Ⓒ火災や事故の場合
・火災証明書
火災が発生したことを証明する、消防署が発行する書類。
・事故証明書
交通事故などが発生したことを証明する、警察署が発行する書類。
Ⓓ家財の破損の場合
・破損した家財の価値を証明するための書類
(領収書、購入明細書、写真など)。
3. 損害額の計算書
・受けた損害額を記載した計算書や一覧表。
4. 保険金の支払額証明書
損害を受けた際に保険を利用している場合、保険金の支払い金額を証明する書類。
5. 所得金額の確認書類
自身の所得金額が証明できる書類。
・源泉徴収票
・給与明細書
・確定申告書 など。
6. 損害額が5万円以上であることを示す書類
控除を受けるには損害額が一定額以上である必要があり、その金額を証明する書類。
雑損控除手続きの時の注意点
手続きを行う際の注意点として、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
①損害額の確認
②証明書類の提出
③期限内に申告
②③は確定申告に関連する内容のため、詳しい説明は省略しますが、①については、雑損控除を受けるためには損害額が一定額以上であることが必要です。
通常、損害額が5万円を超えるか、総所得金額の10%を超える場合に適用されます。
まずは損害額を正確に計算し、基準を満たしていることを確認することが大切です。

受けた損害が控除の対象かどうか、専門家に相談してみましょう。
専門家に相談できるサイト
・近場の税理士を探すなら、税理士紹介ネットワークへ
・家計見直しに特化したFP無料相談
まとめ
今回の記事のまとめです。
雑損控除を受けるには、納税者本人またはその家族(配偶者や親族)が所有する生活に必要な資産が条件で、総所得金額等が48万円以下の場合に限られます。
控除の対象となる資産には、住宅や門、塀、家具、家電、生活用の車などがあります。
一方で、事業用資産や別荘、30万円を超える美術品や貴金属などは対象外です。