家を建てるときや土地を購入するとき、意外と見落としがちなのが、日影規制や斜線規制といった建築制限です。
これらの規制は、建物の高さや形に大きな影響を与えるため、知らずに進めてしまうと「理想の家が建てられない」といった事態に繋がる可能性もあります。
さらに、これらの制限は土地の用途地域によって内容が大きく異なるため、事前に適切な知識を持ち合わせていることが大切です。
この記事では、日影規制や斜線規制の基本から、用途地域ごとの高さ制限の違いまでをわかりやすく解説していきます。
この記事で分かること
- 日影規制と斜線規制の基本
- 用途地域による規制の違い
- 土地選び・家づくりで注意すべきポイント

用途地域別によって、建築制限がどのように変わるのかを見ていきましょう。
建築制限の基本:日影規制と斜線規制
建物を建築する際には、法律上様々な規制がかかるというのは、なんとなくイメージできるかと思います。
まず最初に、日影規制や斜線規制を含む、建築制限の基本概要から見ていきましょう。
そもそも建築制限とは?
建築制限とは、土地に建物を建てる際に、法律や条例によって定められた制限のことです。
これらの制限は、周囲の環境や地域の安全性、住民の生活の質を守るために設けられています。
具体的には、以下の6つの制限などが該当します。

一般家庭が家を建てる際に、重要となる6つの制限について把握しておきましょう。
①建ぺい率
建ぺい率は、土地の面積に対して、どれだけの面積を建物の構造に使用できるかを示す割合です。
②容積率
容積率は、敷地面積に対して建物の延床面積がどれだけ建てられるかを示す割合です。
③高さ制限
高さ制限は、建物の高さを一定の限度に抑えるための規制で、周囲の環境や景観を守るために設けられています。
④防火地域
防火地域は、火災のリスクを減らすために設けられた地域で、建物の構造や材料に厳しい防火規制が適用されます。
⑤セットバック
セットバックは、建物が道路に接近しすぎないように、敷地の前面部分を一定距離後退させることを指します。
⑥接道義務
接道義務は、建物を建てるために、敷地が道路に接していなければならないという規制です。

上記6つの制限のうち、今回は③高さ制限について詳しく見ていきましょう。
合わせて読みたいコラム
・建ぺい率と容積率の違い|13種類の用途地域別の特徴
建築制限の高さ制限について
高さ制限とは、建物の高さを制限する規制であり、周囲の環境や景観、日照、通風などの要素を考慮して設けられています。
これにより、建物が周囲に与える影響を最小限に抑え、地域の調和を保つことが目的としています。
また、高さ制限は、用途地域ごとに建物の高さを制限する基準が設けられています。
例えば、住宅地(第一種低層住居専用地域など)では、周囲の環境に配慮して建物の高さが10m程度に制限されます。

この用途地域別の高さ制限については、第2章で詳しく解説します。
5つの高さ制限とは?
高さ制限には、次の5つの種類があります。
1. 絶対高さ制限
絶対高さ制限は、特定の地域で建物が一定の高さを超えないように設けられた規制です。
例えば、第1種低層住居専用地域や第2種低層住居専用地域、そして田園住居地域では、建物の高さは都市計画で定められた範囲内で、最大10mまたは12mに制限されています。
2. 道路斜線制限
道路斜線制限は、道路から見た建物の高さを制限する規制で、道路幅や位置に応じて、建物が一定の角度以上に高くならないように設けられています。
住居系用途地域や商業・工業系用途地域、または角地では制限がありますが、建物を道路から後退して建てる場合、斜線制限が緩和されます。
3. 隣地斜線制限
隣地斜線制限は、隣接する土地に過度な影響を与えないように、建物の高さを制限する規制です。
主に、第一種・第二種中高層住居専用地域、第一種・第二種住居地域、準住居地域などで適用されます。
一方で、第一種・第二種低層住居専用地域では、建物の高さが10mまたは12mに制限される「絶対高さ制限」が設けられているため、隣地斜線制限は適用されません。
4. 北側斜線制限
北側斜線制限は、建物の北側にある隣地への日照を確保するために設けられた規制です。
建物が北側に向かって高くなると、隣地の日照が妨げられる可能性があるため、一定の斜線内に建物を収める必要があります。
この規制は、第一種・第二種低層住居専用地域、田園住居地域、そして第一種・第二種中高層住居専用地域に適用されます。
5. 日影規制
日影規制は、中高層の建物が周囲の住民の日照を遮らないように設けられた規制です。
特に、冬至の日に一定時間以上影が落ちないように、建物の高さや位置が制限されます。
規制の対象となるのは、3階建て以上の建物などで、具体的な制限内容は地域ごとの条例で定められています。

高さ制限と用途地域の関係については、次の章で具体的に解説します。
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用途地域別の高さ制限について
先ほどの章で用途地域という用語が多く登場しましたが、この用途地域とは、都市計画において特定の地域をどのような目的で使用できるかを定めたものです。
次に、この章では、用途地域別の高さ制限について詳しく見ていきましょう。
そもそも、用途地域とは?
用途地域とは、都市計画において特定の地域をどのような目的で使用できるかを定めた制度です。
これにより、都市の健全な発展や住民の生活環境を守るために、地域ごとに異なる規制が設けられています。

用途地域は全13種類ありますが、主に次の3つに分類されます。
1. 住居系用途地域
住居系用途地域には、第一種低層住居専用地域や第二種中高層住居専用地域など、13地域のうち8つが該当します。
この地域は主に住宅地として利用されることを目的としており、そのため、大規模な工場や商業施設の建設は原則として制限されています。
2. 商業系用途地域
商業系用途地域には、商業地域や近隣商業地域など、主に2つの地域があります。
これらの地域は、住民が日常的に利用する商業施設を集めたエリアを形成することを目的としており、そのため商業施設が多く建設されます。
3. 工業系用途地域
工業系用途地域には、工業地域、準工業地域、工業専用地域の3つがあります。
これらの地域は、工場や倉庫の建設を主な目的としており、主に工業活動に利用されます。

用途地域や都市計画法について詳しく知りたい方は、以下のコラムもご参照ください。
合わせて読みたいコラム
・建ぺい率と容積率の違い|13種類の用途地域別の特徴
14種類の用途地域における主な高さ制限
14種類の用途地域における、主な高さ制限について見ていきましょう。

〇が付いている項目は、その区域内で制限の対象となります。
①第一種低層住居専用地域
道路斜線制限:○
北側斜線制限:○
絶対高さ制限:○
日影規制:○
②第二種低層住居専用地域
道路斜線制限:○
北側斜線制限:○
絶対高さ制限:○
日影規制:○
③田園住居地域
道路斜線制限:○
北側斜線制限:○
絶対高さ制限:○
日影規制:○
④第一種中高層住居専用地域
道路斜線制限:○
隣地斜線制限:○
北側斜線制限:○
日影規制:○
⑤第二種中高層住居専用地域
道路斜線制限:○
隣地斜線制限:○
北側斜線制限:○
日影規制:○
⑥第一種住居地域
道路斜線制限:○
隣地斜線制限:○
日影規制:○
⑦第二種住居地域
道路斜線制限:○
隣地斜線制限:○
日影規制:○
⑧準住居地域
道路斜線制限:○
隣地斜線制限:○
日影規制:○
⑨近隣商業地域
道路斜線制限:○
隣地斜線制限:○
日影規制:○
⑩商業地域
道路斜線制限:○
隣地斜線制限:○
⑪準工業地域
道路斜線制限:○
隣地斜線制限:○
日影規制:○
⑫工業地域
道路斜線制限:○
隣地斜線制限:○
⑬工業専用地域
道路斜線制限:○
隣地斜線制限:○
⑭用途地域の定めのない地域
道路斜線制限:○
隣地斜線制限:○
日影規制:○
土地選び・家づくりで注意すべきポイント
建物を建設する上では、さまざまな制限があることがご理解いただけたかと思います。
それでは、最後に、土地選びや家づくりで注意すべきポイントを見ていきましょう。
セットバックや接道義務の把握
用途地域や高さ制限については、この記事でお伝えした通りですが、土地選びや家づくりを進める際には、セットバックや接道義務についても理解を深めておくことが大切です。
セットバックとは、建物が敷地境界線から一定の距離を取ることが義務付けられている規定です。
一方、接道義務は、建物を建てるために敷地が一定の幅を持つ道路に接している必要があるという規定です。

特にセットバックは、住宅面積に影響を与えることがあるため、注意が必要です。
参照コラム
・セットバック規制の扱い方|2項道路・みなし道路に潜む課題とは?
抵当権の有無の確認
土地選びや家づくりを進める際、抵当権の有無も確認ポイントの一つです。
抵当権が設定された土地を購入すると、差し押さえなどのリスクが生じる可能性があるため、購入前には登記簿で抵当権の有無を確認し、必要に応じて専門家に相談することも大切です。

土地や建物の活用にはさまざまなルールがあるため、適切な知識を身につけておくことが大切です。
合わせて読みたいコラム
・仮換地ってどんな影響があるの?区画整理事業後に知っておきたいこと
まとめ
今回の記事のまとめです。
建築制限とは、建物を建てる際に法律や条例で定められたルールのことです。
中でも高さ制限は、建物の高さを一定の範囲に収めることで、景観や日照、通風などに与える影響を抑え、地域の環境や住みやすさを守るために設けられています。
主な高さ制限には、絶対高さ制限、道路斜線制限、隣地・北側斜線制限、日影規制などがあり、これらの制限内容は用途地域によって異なるため、事前に確認が必要です。